このギターは、ヤフーオークションにて購入したものです。
リサイクルショップからの出品でした。
この状態を見てもらえば分りますが、ジャンク品です。
状態としましては、トップの板に割れが2か所、裏の板が浮いている、ペグの不具合、トップに「釈迦」との文字、サイドの板にマジックで落書きと散々な状況でした。
しかし、ネックの曲りは奇跡的になくそこが救いでした。
前のオーナーは何を考えていたのか理解できません。
ただ、このギターはヤマハ L-6の前期型のためトップ単板、裏も単板、ネックがアフリカンマホガニー、指板、ブリッジがエボニーです。
ちなみに ヤマハ L-6の前期型の見分け方として第3フレットにポジションマークがあるかないかで見分けることができます。
現在でこのスペックを実現するには10万以上するのでそれよりは安く直せました。
しかし、これを直す過程の労力はとても大変でした。
しかも、これを入手したのがちょうど祖母が末期ガンになってしまったときだったので状況は最悪でした。
このギターを両親は気に入らず「縁起が悪いから」と捨てようとさえしました。


 購入を決定した時の話しをします。
前回入手した FG−200Dの良さからもっと良いアコースティックギターがほしいと思いネットオークションで探していました。
その時見つけたのがこのギターです。
最初は、「なんてボロいギターなんだ、しかも釈迦とか書いてあるし。」と思っていました。
ちょうどこのギターを発見してから2日後に祖母の末期ガンが発覚しました。
この日は、忘れません。まさか、あんなに元気なのにと驚きました。
家族との話しで祖母にガンのことは言わないと決まりました。
それから3日後再びネットオークションを見ているとこのギターがまだ売っていました。
今思えば、このときもうギターとして絶望的な状況にあるこのギターが祖母と重なったのでしょう。
私が、もう一度ギターとして弾けるように復活させようと思いました。

 詳細な状況を説明します。
トップの板に描かれた釈迦という文字。
どうやら、油性ペンのようで塗装面を侵食して木部のも達しています。
トップの板の割れの箇所は撮影に失敗して写真がありません。
ただ、完全に割れているため修理には補強板を入れる必要があります。
ペグの不具合は見て分かるとおりガタがきています。
サイドのラクガキも撮影がうまくいかず写真がありません。
これも油性ペンのため木部に侵食しています。
そして、裏板です。
見て分かるとおり塗装を傷つけた傷が目立ちます。
また、浮いている箇所の撮影を試みましたがうまくいきませんでした。

 このことから修理する内容が決まりました。

1:全体のクリーニングをする。
2:ペグを分解してガタを直す。
3:トップの板の割れを直すために裏から補強板を入れてしっかりとつなげる。
4:裏板の浮きを接着することで直す。
5:塗装を完全にはがして再塗装を施す。

 クリーニングとして、ギター全体がほこりをかぶっていたのでまず乾拭きをしました。
次に少量の水をつけて水ぶきをしました。
ようやくほこりが取れました。
タバコのヤニも付着していたので前のオーナーはタバコを吸う人だったのかと思います。
 そして、ギター内部の掃除を始めました。
予想以上にほこりが中に大量にあるため荒業ですが、掃除機をギターのホールに突っ込んでほこりを取りました。
その際、中からハムスターのフンが出てきたので、前のオーナーはこのギターの中にハムスターを入れたのかと思い、よけいに前のオーナーは頭がヤバいのではと思いました(笑)
 これで一通り綺麗になりました。
ペグを分解するためにヘッドからペグを外しました。
このとき、このぐらいのヘッドの汚れならヘッドの部分は再塗装しなくてよいと思いました。
なので、ヘッドだけは液体コンパウンドを使って磨こうと思いました。
結果は上記の画像の通りです。
かなり綺麗になりました。(ポリッシュも塗ったので光沢が出ました。)
 その後、あまりに錆びているフレットが気になったので、磨くことにしました。
これも荒業ですが、液体さび落としを付けた布を使って磨きました。
上記の写真の通り指板を痛めないようにマスキングテープを張りました。
ある程度綺麗になりました。
しかし、かなり摩耗が激しいためいつかはフレットを新しくする必要があります。
また、この際フレットのすり合わせも行いました。
 

 ペグの分解ですが、これは地味な作業なので写真は撮っていません。
まずは、全体の錆を取り磨きました。
その後、油を差しました。
そして、組み立てて完了です。
ネジ穴がつぶれていたりとのことはなかったので問題なくできました。


 TOPの板を直す作業も写真はありません。
まずは、傷の大きさに合わせて補強材の大きさをカットしました。
補強材は、トップの材質と合わせた方がいいのですが、予算の関係上エゾ松は手に入らないので、ドンキホーテにてローズウッドを購入しました。
だいたい、300円ぐらいだったと思います。
それを裏に木工用ボンドで接着しました。
本当は、クランプ等で固定したほうがよいのですが、自分の力で固定しました。
どうやら、しっかりとくっついたみたいです。

 これも写真では分りずらいですが、黒く見えている箇所が浮いている場所です。
これは、木工用ボンドで固定を試みましたが失敗しました。
そのため、瞬間接着材を使用し強力に止めました。
このおかげである程度しっかりとついたようです。

 この再塗装の作業が一番大変でした。
始めにピックガードを取り外しました。
ナイフを使って木部を痛めないように慎重に接着面を離していきました。
そして、ケーキ用のパティシエナイフを使って剥がしました。
 その後塗装をはがすために削りに入ります。
はじめは手で削っていましたが、時間がかかりすぎたため、サンダーを使用しました。
(サンダーとは、削る工具です。)
それでもかなりの時間がかかりました。
ただ、上記の写真にも分かる通りムラがあります。
汚れていた箇所はすべて取れたのでよしとします。
いきなり塗装に入るわけにいかないのでギターを寝かせました。
 そして、塗装に入ります。
塗装はどうせなら良いギターにしたいからとシェラックニスを使用しました。
このニスは主に高級家具やバイオリンなどに使われます。
ラッカーよりも薄く塗ることができて楽器の鳴りを損ないません。
色合いも上記のように美しい色になります。
1日1回塗って次の日まで休ませる作業を3日繰り返しました。
そして、塗装が完成しました。
 ナットとサドルの劣化が激しいため楽器屋さんに作成依頼を出しました。
1週間後ナットとサドルが完成し無事取り付けました。
エリクサーの弦(LIGHT)を張りました。
 音の方は力強い音でした。とても30年も前のギターに思えません。
また、シェラックニスにしたことと年月を重ねたことで鳴りが素晴らしいです。
ただ、劣化したフレットで音がビビる箇所があるのでフレットを交換したときに真価を発揮できそうです。

 いろいろな苦労を経てこのギターの修理は完了しました。
しかし、このギターの音色を祖母に聞かせることはできませんでした。
このギターの修理期間は2ヶ月です。
ちょうど祖母は、塗装をする前になくなりました。
あまりに早いことでした。
祖母の葬式が終わった当日から塗装を始めました。
この時両親にかなり怒られました。
俺がこのギターに込めた思いを気づいてほしかったです。
そんな両親のことを無視して、塗装は3日で終わりました。
そして、1週間後にナットとサドルが完成してこのギターは再生しました。
祖母の遺体の前で弾いた曲を弾いた時に涙が出てきました。

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